かになべ

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ルックバック感想とかまとめ(ネタバレ有)

7/19 AM2時に読んでから40時間あまりか、ずっと刺さったトゲをさするようにルックバックのことばかり思い出している。
まあ、抜群に面白い。


むちゃくちゃいろいろ仕掛けられているのに、仕掛けに気づかなくても読めるしストーリーも面白いし、感情をぶらんぶらん揺さぶられて戻ってこれなくなる。
漫画で表現されていて、ある意味完成しているものを文章にしちゃうなんて野暮もいいとこ、無粋オブ無粋なんだけど、なんでここまで刺さったのかとか、感想書きたい。っていうかこれ読んで黙ってられます?

漫画クソウマ太郎に改名してほしい。

漫画や絵の表現の話は正直あまりわからないと、はい予防線は張った、ヨシ。わからないが、ストーリー運びと表現に無駄がなさすぎてコワイ。140ページがなんでこんなにスルスル"入る"のかという感想があったが、カット割りから人物の写し方、背景にもいちいち意味(情報)がある(そしてそのコマの役割がどうとか思う間もなく飲み込ませられてしまう)。
まさに映画のよう、というかそのまま実写シナリオにできそう(したい)、というか。話を咀嚼するのにストレスがない。チェンソーマンでも思ったけど、読者の体感時間さえも操っている感じがある。作中時間の経過がちゃんと伝わるし、「転」の局面、つまり、驚いたり悲しみにくれたり、とても大きい感情を感じるときは時間がゆっくり経過するように感じられるが、その「作中の人物の体感時間」が読者に伝わる。読んでた時間は数分といったところと思うんだけど、物語時間(作中時間ではなく)がちょうど映画1本分だったと感じました。
いや、そんな話どうでもよくて、爽やかだし共感できるし笑えるし泣けるよ。

仕掛けすぎだろ

まずタイトルで何個やってくれてんだ。ルックバックとバックに少なくとも4個入れらてれる。やってんだよなあ。
・振り返る
・背中を見る
・背景をみよ
・追憶(過去を振り返る)
Oasis の Don't look back in anger (追悼)


「背中を見る」にも、読者視点から、机に向かっている藤野の姿、藤野を追いかけていた京本、藤野が京本の背中に書いたサインが含まれている。
「背景」は、作中で藤野が驚いた、京本の絵の技術の高さを示すもの。
チェンソーマンが参照した漫画としてタツキ先生が明言した弐瓶勉先生の漫画スタイル(「背景にまで個性を出せるとしてアシスタントは使っていない」)にもかかっているらしくて……この物語が「参照」している某映像制作会社の作品の大きなウリであること、とか……もうさあ。

物事の背景をみよ、というのも入ってるのかもしれない。消費者だと忘れているけどアニメや漫画にも背景を描いている人がいて、生きてて、感情持ってて…みたいな…。
この漫画自体の背景も、時間の経過とか、キャラクターの状況とか感情とかを表現する装置として機能している。



やっぱり嘘なんだろうな

一番思った感想としては、Rootportさんの感想のようなことを思った。

再び机に向かう藤野の背中からは静かな怒りを感じる。
怒りとは、闘うために生物に与えられたものだ。でも一体何と?

このストーリーの最大のキモは、漫画を書くのを止めなかった世界(藤野漫画世界)と、止めちゃった世界(藤野カラテ世界)が、大変秀逸な表現で交差するところだ。いやあ、文章にすると無粋もいいところ。明日死にます。

藤野カラテ世界の解釈は読者に委ねられているのだと思う。
その上で、私はやっぱりこれは、藤野の嘘なんだと思う。いや、嘘というか妄想というか作り話というか、物語というか。

どんなにあり得なかった方の未来を想像しても、それが現実になることはない。どんなに思いを伝えたくても、扉の向こうに行ってしまった存在にそれを伝えることはできない。
どんなに小さな思いであろうと届けることが許されていない。それがたとえ、ペラペラの4コマ漫画の1コマ分の、非常にささやかなものであったとしても。

そういう怒りとか無力さと、それでも描くしかない、というか描く以外にできない。そういうどうしようもなさを感じた。

廊下を埋め尽くすスケッチブックやPC上に重ねられたエナジードリンクの空き缶を重ねるような努力を目の当たりにすると、これは言うのは怖いものがあるんだけど、これはもう創作者に限った悩みではくて、物語を頭の中に存在させてしまえてしまう、私たちの持つ何かの一つなんだと思う。

正直これを読んで何かと戦おうと思うほど、私の自己肯定感は高くはない。
ただ、藤野キョウの背中を見る。

闘う方法

一つは追憶。記憶の中にある美しい瞬間を再生する。

あの日、京本を部屋から出さなければ、私と出会わなければ、どうなっていたんだろう。
京本はそれでも美大に行っていただろう。そのとき私がカラテを続けていたら。

"創作の中"なら、それができる。
"創作"なら、現実とは違う世界を存在させられる。

"創作"なら、現実に一矢でも報いることができるのなら。
それがたとえ、ペラペラの4コマ漫画の1コマ分の、非常にささやかなものであったとしても、届けられるとしたら。






以下読み解く参考にさせていただいたツイートほか。